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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)125号 判決

愛知県名古屋市千種区今池三丁目9番21号

原告

株式会社三洋物産

代表者代表取締役

金沢要求

訴訟代理人弁理士

武蔵武

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官

伊佐山建志

指定代理人

平瀬博通

佐田洋一郎

吉村宅衛

廣田米男

主文

特許庁が平成9年審判第8264号事件について平成10年3月30日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  原告が求める裁判

主文と同旨の判決

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

原告は、

a  昭和60年6月26日に、考案の名称を「パチンコ機」とする考案について実用新案登録出願をし(昭和60年実用新案登録願第96828号)、

b  平成4年4月21日に、aの出願の一部を新たな実用新案登録出願とし(平成4年実用新案登録願第33789号)、

c  同日、bの出願を特許出願に変更し(平成4年特許願第129453号)、

d  平成8年5月7日に、cの出願の一部を新たな特許出願とした(平成8年特許願第137508号)。

特許庁は、平成9年4月8日にdの出願に対する拒絶査定をしたので、原告は、同年5月15日に拒絶査定不服の審判を請求し、平成9年審判第8264号事件として審理された結果、平成10年3月30日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受け、同年4月5日にその謄本の送達を受けた。

2  本願発明の特許請求の範囲

複数の電装部品から延びる各配線を接続する中継端子盤を備えたパチンコ機において、

前記中継端子盤に設けられる各端子の近傍には、各端子に接続される相手先の電装部品の部品名の表示が前記中継端子盤自体に付されていることを特徴とするパチンコ機。

3  審決の理由

別紙審決書「理由」写しのとおり

4  審決の取消事由

審決が援用する引用例1は、本出願前に頒布されたものではない。したがって、審決は、引用例としえない刊行物を引用例として判断したものであるから、違法である。

第3  被告の主張

原告の主張1ないし4を認める。

理由

原告の主張は、すべて被告も認めるところである(なお、前記dの出願日は、前記aの出願日である昭和60年6月26日とみなされるところ、甲第5号証によれば、引用例1は、昭和60年11月30日に公開されたことが明らかである。)。

したがって、審決は、引用例としえない刊行物の記載事項を理由として、本願発明の進歩性を否定したものであって、違法であるから、取消しを免れない。

よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、正当であるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成10年11月17日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

理由

1.手続きの経緯・本願発明

本願は、昭和60年6月26日に出願された実願昭60-96828号を実用新案法第9条第1項で準用する特許法第第44条第1項の規定により平成4年4月21日に分割して実願平4-33789号とし、次にその出願を特許法第46条第1項の規定により平成4年4月21日に特願平4-129453号に変更し、さらに、その出願をを特許法第44条第1項の規定により平成8年5月7日に分割して新たな特許出願としたものであって、その発明の要旨は、平成9年1月30日付けの手続き補正書および平成9年6月16日付け手続き補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の【請求項1】に記載されたとおりの、

「複数の電装部品から延びる各配線を接続する中継端子盤を備えたパチンコ機において、前記中継端子盤に設けられる各端子の近傍には、各端子に接続される相手先の電装部品の部品名の表示が前記中継端子盤自体に付されていることを特徴とするパチンコ機。」

にあるものと認められる。

2.引用例

これに対して、原査定の拒絶理由に引用された実願昭59-67695号(実開昭60-180480号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という)には、「遊技盤に取付けた複数の電気的作動機器と、遊技盤の裏面に設けた球寄せ及び裏機構板と、前記電気的作動機器を制御するため裏機構板に設けた電気的制御ユニットとを有するパチンコ機に於いて、球寄せ後面に端子付き中継基板を固定し、遊技盤に単独で取付けた複数の電気的作動機器のうち少なくともスイッチ関係部品から出ているリード線を一度この中継基板の端子に着脱可能に接続し、中継基板の端子からリード線をコネクタを介して前記制御ユニットに接続したことを特徴とするパチンコ機。」(実用新案登録請求の範囲)が記載されていることからみて、引用例1には、「複数の電機的作動機器から延びる各リード線を接続する端子付き中継基板を備えたパチンコ機」を構成とする発明が記載されているものと認められる。

同じく、拒絶理由に引用された実願昭56-141574号(実開昭58-45573号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という)には、「プリント板ユニットの表裏プリントパターン接続孔に挿入できる少なくとも1個の端子を有し、文字、数字又は記号の記入された絶縁性樹脂材よりなることを特徴とするネームプレート。」(実用新案登録請求の範囲)が記載され、

「他の電子機器と接続するためのプリント板側コネクタ3a’、4a及びケーブル側コネクタ3b’、4bにはコネクタNO等のラベル6が貼付されており、その嵌合接続の場合に同仕様のコネクタの誤挿入防止のために、図に示すようにカナグ8にコネクタNOを表示」(明細書第2頁15行乃至20行参照)が記載され、

「ネームプレート10の前面に表示内容を捺印またはラベル貼付けしてある。このような構成を有するので、第3図に示すように、プリント板側のコネクタ3a、4aの後方、図面において上方および側方図面において右方に、またスイッチ5の後方に近接してネームプレート10の表示面を前方操作側、図において下方に向けて端子10aをプリント基板1aの表裏プリントパターン接続孔2aに挿入し、コネクタ3a、4a、スイッチ5及び図に示していないその他の搭載部品と共に、半田付けすることによりプリント基板1a上に固着することができる。従って例えばケーブル側コネクタ3b、4bにプリント板側コネクタ3a、3b(ここでの3bは4aの誤記と認める。)に挿入する時、・・・操作方向よりネームプレート10の表示を容易に見ることができる。」(明細書第5頁7行乃至同第6頁3行参照)が記載されていることからみて、

引用例2には、「基板に設けられる各コネクタの近傍には、各コネクタに接続される相手先の部品を識別する表示が基板自体に付された」点が開示されているものと認められる。

3.当審の判断

そこで、本願の発明(前者)と引用例1に記載された発明(後者)とを対比すると、

後者の「電気的作動機器」、「リード線」および「端子付き中継基板」がそれぞれの機能に照らし、それぞれ、前者の「電装部品」、「配線」および「中継端子盤」に相当するものと認められるから、

両者は、「複数の電装部品から延びる各配線を接続する中継端子盤を備えたパチンコ機」である点において一致し、

前者においては、各端子の近傍には、各端子に接続される相手先の電装部品の部品名の表示が、盤自体に付されている構成であるのに対し、

後者においては、かかる構成が備わっていない点において相違しているものと認められる。

その相違点について検討ため、

本願の発明と引用例2に記載された発明とを比較すると、両者は、配線の誤接続を防止するという課題において、共通するものであり、

引用例2には「基板に設けられる各コネクタの近傍には、各コネクタに接続される相手先の部品を識別する表示が、基板自体に付された」点が開示されている。そうすると、引用例2には、配線の接続に際し、表示物により誤接続を防止するという前記相違点に関する本願の発明と軌を一にする技術内容が示されているものと認められる。

したがって、引用例1に記載された「複数の電装部品から延びる各配線を接続する中継端子盤を備えたパチンコ機」において、引用例2に記載された、「基板に設けられる各コネクタの近傍には、各コネクタに接続される相手先の部品を識別する表示」する手段を採用し、本願の発明のパチンコ機の発明を想到することは、当業者において格別な技術的困難性を有することなく容易になし得えたものと認められる。なお、表示手段に部品名を用いることは単なる設計的事項にすぎない。

そして、本願の発明の「配線の接続間違いを起こすことがなく、高い知識を持たない人であっても、容易に配線することができる」という効果が、引用例1及び引用例2に記載された各発明の効果の総和以上の格別なものとも認められない。

4.したがって、本願の発明は、引用例1及び2に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

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